ねえ、あの頃の恋ってさ、
ちょっとだけ切なくて、
でもやけにリアルだったよね。
「無理しない恋、最高だったな」
そう心から思えるようになったのは、
いくつもの空回りを経て、
少し大人になってからのこと。
今でも、
仕事帰りの何でもない夜風に吹かれたとき、
あの人と過ごした時間がふっと蘇る。
特別なデートスポットに行ったわけでもない。
高級なディナーを食べたわけでもない。
ただ、金曜日の居酒屋からの帰り道、
少しだけ、
歩幅を合わせてくれるあの距離感とか。
街灯の下、触れそうで触れない手の位置とか。
「あと一歩」を踏み出さない、
あの絶妙なドキドキがずっと忘れられなくて。
思い出ってさ、
いつでもあの頃のままで、
戻れる場所に待っているんだよね。
当時の私は、
そばにある日常の幸せより、もっと遠くの、
もっと刺激的な、
幸せばかりを追いかけていた気がする。
「もっとドラマチックな恋があるはず」
「もっと私を激しく、
揺さぶってくれる誰かがいるはず」って。
でも本当は、
金曜の夜にすっぴんで缶チューハイを飲みながら、
テレビを見て笑い合える安心感とか。
沈黙が流れても1ミリも気まずくない空気とか。
そういう、
「一番失いたくないもの」ほど、
手放して、遠くへ行ってしまってから気づくもの。
デートの約束が増えて、会うたびに少しずつ、
心の距離も縮まっていった。
助手席で、あるいはカフェの対面で、
ふとした瞬間に見せる彼の横顔。
ただ黙って、
見つめているだけの横顔に、
胸がギュッとなる。
「ああ、ずっとこの顔を見ていたいな」
言葉にしなくても、
それだけで満たされる夜が確かにあった。
だけど、現実は少しずつ、
目に見えない速さですれ違っていく。
お互いに仕事が忙しくなると、
あんなに秒で返ってきていた、
LINEの通知もおろそかになっていく。
最初は、
「疲れてるのかな」で流せていた既読の遅さが、
だんだん心のささくれになって。
会いたいタイミングも、言葉にしてほしい熱量も、
少しずつズレていく。
会っているのに、どこか遠い。
隣に座って同じ映画を見ているのに、
なぜか少し寂しい。
そんな風に、
気づけばすれ違いばかりの毎日に包まれていく恋。
「叶わなくてもいい。
ただ、心の中でひっそりと大切にしていよう」
本当はちゃんと好きだった。
でも、お互いの生活を壊したり、
自分をすり減らしてまで、
無理に続けるものじゃないことも、
どこかで分かってた。
お互いに、
「引き留めない優しさ」を持っていたからこそ、
あの恋は綺麗なままで終われたのかもしれない。
追いすぎない、縛りすぎない、
でもお互いをちゃんと想ってる。
そんな「無理をしない恋」の距離感って、
きっと傷つくことを知った大人の余裕。
誰かのために自分を偽る恋に疲れたとき、
ふっと思う。
何も飾らない、背伸びもしない、
あの等身大の恋こそが、実は一番、
心を満たしてくれていたのかもしれないって。
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